録音と構図
「笑顔で言われて・・・ごまかすように笑って、走って逃げました・・・」
「なるほど。そりゃひどいナンパ体験だ。だから覚えてたってわけか」
「それもあるんですが、・・・消せなくて・・・」
「記憶を?」
「録音を」
・・・・・・ろくおんを?・・・
「なんだって!?」「おい、まさか、その、」「何で録音!?」
警備官三人がつめよるのに、鳥の声を録音するのが趣味なんです、と保安官はあとずさった。
「 彼女に声をかける前に機械はとめて、ポケットに入れてたんですけど、帰ってから、一度だけ再生したら、はいってて・・・消すのも怖くなちゃって・・で、いまだそのままなんです・・・」レオンに助けを求める視線を送る。
ジャンが気をとりなおし、その録音がぜひ欲しいと頼むのに、レオンがいらついたように腕をくんだ。
「おいジャン、その録音は残りの情報全てと交換だ。―― あれたちはこの森で三年ごとにあのかわいそうな遺体を見つける役目を負ってるんだぞ」
森の責任者の怒りに、警備官三人は顔を見合わせ、うなずきあう。
「これをみてくれ」
とりだした端末機の画面には、淡く繊細な色使いの絵がある。
「きれいだろ?これも、ケイトの絵だよ」
絵から目の離せない男はしばしの間をとり、「また、・・ここか」とつぶやいた。
ジャンは保安官たちの顔をみまわした。
「ケイト・モンデルが、失踪した直後にある人物に送っていた絵がこれだ。この前の合同会議では、この森でスケッチをしていた彼女が、犯人に目をつけられて連れ去られたんだと思ってた。―― が、これをみた今は考えが違う。 ―― 彼女はこういう絵を描く場所を持っていたんだ」
「・・・これを、彼女が描いたっていう確証は?誰かのいたずらかもしれないだろ」
ききかえすレオンの声に力はなかった。
ジャンの声には力がはいる。
「おれは論点をずらすつもりはないからな。 ―― 問題なのは、ケイトが描いたとおもわれるこの絵の《構図》だ。あんただって驚いたろ?」




