さしいれ
ウィルが不満げに襟元をなおしながら、説明義務があるだろ、とレオンをにらむ。
それをなだめるように、ジャンが、どうぞ、と手をさしだした。
「・・・十三年以上前、おれが、ここの保安官になってすぐ、ノース卿から城に招かれた。はじめて会った彼は噂とは程遠い印象の紳士だった。 それからもときどき呼ばれるうち、城の敷地内にかなりの人間がいることに気づいた。 この森の中に、あんなに身元不明の人間がいるのは好ましくないと、ノース卿に言うと、すぐに全員分だといって身分証を渡してきた。警察官にまわして犯罪歴を調べてもらったが、誰にもないし、そのうえ、じかに話してみれば、ごく普通のいい人たちで、ここは《楽園》だと喜んで働いていた」
「ノース卿のために?」
はさんだウィルの声はたっぷりと皮肉を含んでいた。
レオンはしかたなく認める。
「ノース卿の話では、頼んでもいないのにやってくれて、畑で作物も育ててた。で、―― そんなふうに育てたものを、おれたちに持ってくるようになった」
はじめはよかったんだ、とレオンは顔の傷をなでる。
「・・・料理した野菜や、焼きたてのパンだとかをおれたちは礼を言ってもらってたが、あまりにもそれが『日常的』になって困ってきた。 まるで品を受け取って『あの城の保安』をしてるみたいに、居合わせた観光客には映るだろう?」
おかしな噂がたつまえに、と、その差し入れを断った。
するとそれから、夜にだけ『差し入れ』されるようになった。
「・・・おれたちが気づかない間に、小屋近くの木の枝の間に、布のかかったバスケットが置いて行かれるようになったんだ。『いま届けました』なんて教会の人から電話をもらっていたから、―― はじめのころは気づかなかった」
しばらくして、夜中侵入した『ネズミ』たちを捕まえると、このごろ噂になっている『木の上をとぶ幽霊』をみにきた、と、城から小屋までのルートをしめした。
顔をみあわせた保安官たちが翌日ようやく『それ』をみつけた。




