掘り出さない
ジャンが先回りしたように補足する。
「先に言っておくが、おれたちは何もあんたらの仕事を疑ってるわけじゃないし、この森のことも好きだ。 あんたたちがなにかを『見落としてる』って言いたいんじゃない」
警察官とは異なる仕事のやりかたをする警備官がレオンは好きだ。だが、返した言葉は自然ときつくなる。
「―― こちらも言わせてもらおう。おれたちはこの森を愛してるし、この仕事に誇りをもっている。戦う相手は、主に《自然》だ。 人間がここで何かを犯そうとすれば、《自然》がそれを教えてくれる。・・・たしかに、あの沈んでた車のことは気づかなかった。だが、バーノルド事件は別だ。 ―― この森であんな犯罪を行っているやつの痕跡を、見落とすようなへまはしない」
見合ったジャンとレオンの緊張をやぶるように、端末機を持ったザックが二人の間に立った。
「あのさ、ガキのころ聞いたんだけど。ここって、魔女たちが集まって呪文をとなえながら、でっかい鍋で子供を煮てるって」
保安官の一人が笑い、自分もそのつくりばなしを聞かされ、この森にむやみに入ってはいけないと教えられたと言う。
レオンがようやく姿勢をくずし、机の後ろの棚へと手をのばした。
「観光のパンフレットにものってるが、ここはむかし《聖なる場所》で、あのノース一族が『神官』として管理していたっていう話しだ。有名な学者の説だと、大事な儀式をしてたんで、掘ればいろいろ出てくるはずだってな」
歴史的価値はあるそれを掘り出すつもりはないと、そのパンフレットはうたっている。




