ミイラ
残酷描写あり。ごちゅういを
からかうでもなくザックに微笑みかけ、マイク・ベネットだと自己紹介し、他の警備官をみまわし小声でつづけた。
「おれなんて、はりきって出た初めての現場でうめき声だしてぶったおれて、しばらくみんなに《子猫ちゃん》って呼ばれてた。かわいいだろ? 新人ってのはふつうそういうもんだ。――― ところが、おたくらバート班に来る新人ってのは、いっつも新人らしくないガキばっかりだ。 ひさしぶりにまともなのがはいって安心したさ」
なぐさめられたザックはどうにかうなずき、あれをみろ、とマイクがさした後ろの木を見上げた。
地面にある遺体が足をむける先の木に、高台の救助に使うスチール製の梯子が三本もかけられ、上のほうでは数人が手をのばし、慎重に作業をしている。
しばらくすると作業は終わり、シートに包まれたちいさなものが、ゆっくりと、枝を支点としたロープをつかっておりてきた。
マイクが静かな重い声で言う。
「――― ほら、・・・ようやくだ。・・・いいか?両方とも、・・・かわいそうな被害者だ」
木の下で待ち構えていた他の警察官が、降りてきたシートを両腕で抱えるように受け止めた。
そのままそっと地面におろし、ライトやカメラを構えた人間とともに、ゆっくりと開く。
覚悟していたザックは実物を目にし、写真の資料とは比べられないショックでめまいがした。
無意識に口をおさえ、あげそうになった声をおさえたままで、しばらく動けなかった。
横に立つマイクが肩をたたく。
「正常な反応だ。こんな遺体見たら、だれだって声をあげる。――― まただ。ちくしょう。・・・また、頭だけが、『 ミイラ 』だ。 ひからびて、穴には虫がすみついて、元の顔なんてわからないほど変わってるってのに、髪も皮膚も残ってるなんて・・・。なんだってんだ?こんなひどい遺体にする意味がどこにある?・・・残されたひとたちは、こんなに変わっちまった顔を目にしなくちゃならない。なのに、・・・髪はこんなに残ってて、ホクロだってみつけられる。どうしてこんなことができるんだ?どうして ―― 」
シートの上、茶色く乾いたその頭部に残された髪は、まだ生きていた時の色を残したままで風にゆれていた。




