保管室
入り口ホールの高い天井とは違い、天井の低い廊下だった。小窓が高い位置にあるが、全体的に暗い。
せかせかと先をゆく男がすいと横道にそれ、壁にあったドアをひらくと、途端に明るい外へ出る。中庭を横切ったほうが近いのでね、という男についてかわいた芝生を踏み、庭をはさんだ反対側の壁に見えたドアへとむかう。
「ご存じの通り、ここの鑑賞券を手に入れるのは、面倒です」
またしても暗く長い廊下に入り、いそぐように先をゆく男は話しを続ける。
「まず、電話がつながらなくちゃはじまらないもんな。おれは、ほぼ半日つぶれた」
ジャンのうんざりした言葉に、そうなんですよ、とハドソンは指をならす。
「そんな思いまでしなきゃならないなんて、ちょっと、いやになるでしょう?」
かけたことのない二コルはあいまいにうなずき、愛する妻のことを考えた。
「たしかに。おれも、母親にどうしてもって頼まれてしかたなくやってみたけど、あれで懲りた」頭をかくジャンを、ウィルが、いがいと親孝行なんだね、とほめる。
「でも、それが『中央劇場』なのですよ。 ―― 面倒な手続きを経て手に入れた券を握りしめ、気合をいれてしゃれこんで出かける場所。それがここなのです」
チケット売り場の責任者はうれしそうにうなずき、突きあたりで左右に分かれた廊下を曲がると、すぐ目についた大きな扉に近づき、ポケットからじゃらり、と重そうな鍵の束を取りだした。
中から一つをえらびだしたハドソンは、ドアノブ下にある穴へと鍵をさす。
押し開かれたドアは、かなり分厚く重そうだった。
ゆっくりと開けた扉を支えておいてくれるようニコルに頼むと真っ暗な中へとはいり、しばしのち、「どうぞ」というで明かりがともる。
自然と三人の男たちの感心した声が重なった。
その空間は、まるで人に見せるための倉庫のようだった。
天井の低い部屋を、ぐるりと海老茶色の重そうなカーテンが囲み、中の広い空間は、入り口からみわたせるように数段低く広がっている。
そこに、手前から向こうまでつやのある棚の列がいくつも並んでいる。
美しい木目の浮かんだ天板をながめたウィルが、特注品だね、と小声で言った。
それを聞き取ったハドソンが嬉しそうにうなずく。
「ここで上演された芝居の衣装や小道具、資料などを保管するための棚です」
階段をおりながらそこにぎっちりとおさめられた箱をさす。
近くでみる棚は思ったよりも低く、その横板や柱には彫刻までほどこされていた。
ずいぶんと凝ってるなというニコルの感想に、突然ハドソンが走り出し、壁際に垂れた太いひもをつかんだ。
「そう。『凝って』るのですよ」
ごらんください、と言って握ったひもを勢いよく引きおろす。
何かを強くこするような音とともに、カーテンたちが一斉にゆれた。




