わたくしの見解
「・・・わたくしは、彼女が最後の学費を納めたとき、学校に残っていた最初のころの作品も持ち帰るのだと直接聞いておりました。―― ですので、彼女は行方不明になったのではなく、みずから行方をくらましたかったのだと、そう思っております」
目元をさっとぬぐったチーフをポケットにもどした。
自分から行方をくらました?
それでは、ナタリといっしょではないか。
「ちょっとまってください。 あなた、いまの話しを、当時捜査にあたった警察官にしましたか?」
ルイの問いに、相手はうなずき、顎をあげた。
「ただ、―― さきほどお話しいたしました、『パトロン』の話をしたところで、そのときの警察官は、『金と男か』と口にして他の警官とうなずきあいました。 なので、―― いまのわたくしの見解はお話ししておりません」と答えた。
「あのさ、そのとき、あんた、ケイトのパトロンの名前はわからないって答えてるんだけど、それってホント?」
うたぐるようなザックの質問に、眉をよせた老人は、本当ですと顎をひく。
「わたくしどもはその買い手の方とは、代理人を通してしか接触しておりません。ですので、代理人の名前はわかっておりましたが、買い手の方となると、まったくなにも」
そっか、と端末機にあがった当時の資料を見るザックは、《交渉代理人死亡により、買い手の素性は不明のまま》という項目に眉をよせる。
老人のこたえに何かを感じ取ったルイが穏やかに聞いた。
「あなたはひょっとして・・・、その代理人が、死亡したことに、なにか『見解』があるのでは?」
すぐにはこたえない老人が、いまだにむこうの『駄作』をながめるケンを見てから、ゆっくりと口をひらいた。
「・・・先ほどももうしあげましたが、事件当時は警察の方にそこまで聞かれたことはないのでお伝えしておりませんが、ケイトの捜索願が出される前、わたくしは個人的に代理人に連絡を取りました」
「あんた、―― ケイトは行方不明なんじゃなくて、そのパトロンのところに行くってのを知ってたんだな?」
知ってたわけではございません、と自分をにらんでくるザックに首をふり、老人は淋しげにうつむいた。
 




