バーノルドの森
残酷描写あり。ご注意を
湿った土と、積もった枯葉の匂い。
バーノルドの森に子供のころ何度かきたことのあるザックは、その空気の匂いに思い出を呼び起こされていた。
自然保護区であるバーノルドの森は、あまり手の入れられていないその環境を楽しむ場所で、マーノック湖という大きな湖も擁し、ランチを手にした散歩者や身体をきたえるランナー、ボートでの釣りを楽しむのんき者たちが楽しむための場所だ。
火をたいたり、テントを張るキャンプなどは禁止で、時間がくれば出入り口の門は閉ざされる。
ここには普段、太陽が落ちたあと何の光もないはずだ。
だがその場所が、今、たくさんの人工光で照らされ、あちらこちらでカメラのフラッシュが瞬いている。
むこうの一画ではせまい檻に閉じ込められた犬たちが、唸り声と怒ったような鳴き声をあげている。
こういうのぼく好きじゃないなあ、と足元を見おろし、ウィルがつぶやいた。
まったくだ、と同意したニコルは、梯子が立てかけられた木を見上げ、その下で警察官たちが大きなビニールシートを広げるのを見守る。
――― 今日だって、写真でたくさんみた
ザックは乾ききった口の中で、小さく自分に言い聞かせた。
枯葉におおわれた地面に、モスグリーンのシート。
その上には死体があった。
ジャンとウィルがかがみこむ。
「この季節に、ずいぶんと涼しそうな格好だな」
「袖をやぶかれちゃったんだよ。またしても黒いドレスだね。質はいいけど今の流行じゃない、ずいぶんクラシカルなかたちだ。 うちの母親でも着ないと思うよ」
その会話に、まぶしいほどライトにあてられる遺体の損傷をザックは確認してしまう。
―― 写真はたくさんみた、が、・・・それは、本物じゃなかった。
懸命に気を紛らわそうとしたけれど、失敗に終わり、離れた場所へむかつく胃の処理をしに行った。
戻れば、皆に無言でなぐさめられ、警察官の人間にさえ、同じような顔で見られるのが、情けない。
「若者、その感覚をなくすなよ」
いきなり肩をたたいてきたのは、警察官の現場責任者だという男だった。




