№03- 緊張 (現場へ)
― №03 ―
会社に戻り、装備をそろえて黒いバンにのりこむと、こんどみんなでジャンの家で飲むか、とケンがブーツの紐をなおしながら提案する。
そのジャンは、バートと一緒に、仕切りの向こうの運転席にいる。
「ばか言ってんな。おまえが来ると、おれの大事なコレクションが、ありがたみもないまま消える」
仕切りはあいたままなので、嫌そうなジャンの声が答えた。
「とっておいたってしかたねえだろが。飲みに来る女だっていねえんだし」
「・・・ぜったいに、くるな」
わき起こった笑いに自分も入っているのに、ひどく緊張しているのをザックは自覚していた。
レストランでジャンに入った連絡は、捜索部隊の補助でこれからA班がさがそうとしていた行方不明者が、見つかったというものだった。
――― でも、《普通》の行方不明じゃないんだ・・・
床を見つめ、意識して両手をにぎりこんだとき、隣に座ったニコルが、いきなり指を突きつける。
「・・・・なに?・・」
「コードが、ひっかかってる」
「・・・あ、ああ」
肩にさしこんだ携帯ライトのコードが、留め具につけられず、胸にある社章のワッペンにひっかっかっていた。
みんなに見つめられながらそれを直し、ザックは急に恥ずかしくなる。
そんな緊張することないよ、と涼しげな声で、ウィルが長い足を組む。
「どうやら、向かう先には、死体しかないようだし」
ザックは、どうにかあいまいに笑い返す。
「ウィル、そういういい方はやめろ。好きで死体になんかなったんじゃないぞ」
ニコルの怒った声に、肩をすくめた男は続ける。
「生きてる人間を相手にしなくてもいい、って意味で言ったんだよ。 ―― おれたちが本当に相手にしなきゃならないのは、こうしてる間にも、生きてしゃべって生活してる人間だろ? ザックが緊張しなきゃならないのは、そういうのを相手にするときだ」
「 はい 」
しっかりとうなずく新入りを見て、ニコルは、ひさしぶりにウィルを見直したと言い、ザックの緊張をほぐした。




