おなじ位置だった
フックに提出したのは、普通の感覚の上司ならば、絶対に突き返すであろう種類の書類だった。
予想外な対応をした上司のことを考えていると、話し声とともにドアが開く音がした。
「― ローランドが捕まってから、なんだか機嫌がさらに悪い」
「ありゃあ、あれだけの著名人たちを意のままに操っていたヤツのことが、気に入らないってだけだ」
「なんだかいつもの倍の催促がくる。バーノルド事件で誰かが動いてないか、何か進展はないのか、って。こっちは普通の仕事もしなきゃならないんだ。盗み聞きなんて手の空いたときにしかできない。なのにあいつ、きみたちもっとまじめに情報を集めろ、だと」
「防犯課のノアが警備官といっしょに手柄をあげたのも気に入らないのさ」
「そうそう。自分のしかけた盗聴器にノアが気づいてるってのも気に入らないんだろ。みんな知ってるのにな。おれ、そろそろシェパード派、おりようと思ってんだ。おれしか残ってないんだよ」
「ああ、うちもやめるやつが多い。前みたいに金もくれないしな」
笑い声とともに出て行った男たちの会話は、自分の働く職場内で、電話を盗聴してそれを《情報》として一人の男にさしだすということが『噂』ではなく、本当に行われていたのだとしめした。
―― ってことは。ブライアン・フックは、盗聴される側か・・・
たぶん、誰かは知らないが、自分の属す場所にも、『シェパード派』とかいうのがいるのだろう。
そして、気の合わないと思っていた上司は自分とおなじ位置にいる。
少し楽しい気分になったが、あの書類を提出するに至った昨日のことを思い出し、痛みのぶりかえした首をさすった。




