クソっ!
そういうつもりはなかったが、コソコソと嗅ぎまわるように映っていたのかと思うと、今日から上司になった男の顔もちゃんと見られない。
「おい、レイの、何を知りたいって?」
ひどく、平坦な声だった。
反射的に見上げてしまった顔は、明らかに、何かの感情をおさえる気配がある。
「い、いや、その、この店で、働いてたりすんのかなあって」
慌ててとってつけたようなその問に、バートの目がケンに流れる。
「にらむなよ。『レイ』の話は自然と出たんだって。 だいたい、なんでおれたちがこんな高級な店に出入りできんのか、誰だって疑問は湧くだろ?だから、先に、あんたの口からじかに教えておいたほうがいいんじゃねえの?」
それにいやそうな顔を一瞬みせ、自分の黒い髪に手をつっこんだ男が、「いねえ」、とそっけなく言った。
「―― 今日は、レイはここにいねえ。働く場所は、ここだけじゃねえし、あんなんでも、けっこう忙しいやつなんだ」
「バートの友達?」
ザックの問に、すぐに否定の返事。
「ちがう。が、・・・そういや・・・あいつと友達だったときなんて、まったくねえな」
何かを考えるように、腕を組む。
「なんだそりゃ?じゃあ仲が悪い―― 」
なんだって!?
いきなりジャンの叫び声が、部屋のすべての会話を断ち切った。
携帯を耳に当てたままの副班長が、窓際からこちらにむけて動かす指でなにかを訴える。
周りが一瞬で理解し、バートが端末械をとりだして、命じる。
「ケン、PC借りてきてくれ」
待っていたようにすぐに立ち上がると、ザックの肩を叩き、部屋を出ていく。
ルイがテーブルクロスを引っ張り、他の男たちが食器をすべて端によせ、空いた場所にのせられた端末機の画面をみなでのぞきこむ。
だされた写真に誰かが舌を打った。
「―― クソっ!」
ジャンのそれは、その場にいた全員の思いだった。
 




