ありえない
「・・・・あの店の中の客、『全員』ってことか?」
自分の頭をおさえたジャンの小声に、マークは力強くうなずいた。
「ぼくとケンの印象では、『ドーンズ』自体はこの件には無関係みたいだけどね」
ちょっと待ってよ、とウィルが前髪をはらう。
「―― つまり、ここに写ってる店のお客がみんなでケンとマークを監視してて、店の中で停電のあった四秒で《みんな》そろって商品棚を押したってわけ?しかもこれのために前日の真夜中、四分の停電に合わせて店に入り込み、いっぺんに金具をゆるめておいた?」
うなずくマークに、いや無理でしょ、ともう一度前髪をはらう。
「だって、どうして『この店』におまえらがくるって《わかった》んだ?」この店は無関係なんだろ?と付け足して聞く。
「そう。問題はそこなんだ」
おこったようにマークが割れた眼鏡をポケットからだし、ゴミ箱へ放った。
「―― レイと会ったのは偶然で、ケンは離れようとしたのに、・・・ぼくがレイを誘った。それもすべてその場での思いつきだ。その自然な流れで、レイがいつも利用するドーンズに、買出しにいくことになった。――― なのに、相手はそのことをわかっていたように、前もってドーンズで準備している」
そんなこと可能だと思うか、と困ったようにジャンをみた。
見られても困る男はうなってから、ありえねえだろと頭をかく。
「つけたすと、―― 棚が倒れる前に投げられた木彫りの人形は、どこにもなかった」
不機嫌なケンの言葉にジャンが両手で顔を覆ったとき、またしても、机の上の電話が鳴った。




