ききたいこと
いつのまにか自分の皿を空にし、残っていたザックの分の肉にまで手をだす男が、それをほおばり、先ほどまでの『ケン』と同じ人物とは思えない目で見つめてきた。
「なあ、おれたちの噂、ほんとうはじゅうぶんきいてるんだろ?訓練生の時に」
「・・・まあ、すこし・・」
「んなわけあるかよ。腐るほど噂はあるはずだ。おれのこととか。否定すんなよ。 ―― いいか?おれのことはどうでもいい。今日、この班にきて、実際に会ったみんなの印象はどうだったんだよ?かなりの部分で、修正したか?それとも、ひとからきいた噂どおりの印象だったか?―― だとしたら、おまえ、 さっさとこの班やめろ 」
「いや、その、」
「責めてるんじゃないぜ?感じ方は人それぞれだからな」
「おれは、」
「バートに憧れてここに来ただけだって?なら、かぎまわるな。 『レイ』はこの仕事と何の関係もないやつだ。噂話が好きなやつらはどこにでもいるが、おれたちの班にはそういうやつは、いらねえ。 ―― 他の班に行きたいなら、早めに言うんだな」
食べ終えた皿に行儀わるくフォークを投げ置いた男は、口を動かしながら、じっとザックと眼をあわす。
喉が、緊張を知らせた。
バートとは違う意味で、眼を合わせる相手が、怖い。
今まで会ったことのないタイプの人間だと、ここでようやく気づく。
「ケン、なにしてる?」
背後からかかった声に、合わせていた黒い眼が、いたずらを見つかった子どものように動いた。
「 ―― べつに。あんたが、いかにカッコイイか、って話しで盛り上がってた」
その当人を見上げながら、平然と嘘をつく。
「あんまり新人からかうなよ」
「からかってねえって。そういやバート、―― ザックが、レイのこと、いろいろ聞きたいらしいぜ」
「い、いや、べつに、」
あせるザックへ、ケンがにやついた顔を寄せる。
「気になるなら、じかに聞けばいいじゃねえか」
「・・・・・・・」
たしかにそうだ。
 




