拾った
煮詰まって真っ黒なさめたコーヒーをすすり、書き溜めた自分の作品ノートを整理する。
常にノートを数冊持ち歩き、どこで『きっかけ』にあっても大丈夫なようにしてあるのだ。
「ちくしょう・・・」
ノートの冊数を確認していて、またそれを思い出す。
先週この店にきたときに、一冊、落とすかなにかでここでなくしてしまったのだ。
そんなもの落ちていなかったという店員に何度も確認すれば、最後には、そんなに大事なら金庫にでもしまっておけと怒鳴り返された。ローランドは、店員の太い腕をにらんだが、もう何も言えなかった。
――― ついてない
ノートに書いたものは、なくなってしまった。手で書くことにこだわっているので、PCには残していない。
機械が使えないわけではない。持ち歩いている端末機械から、暇さえあれば、メッセージリンクにつなぐし、検索もする。
――― そうだ。そういえば、なにか入ってるかな・・
この店で、自分の創作ノートをなくしたことを、さきほどひどくおおげさになげいてみせたのだ。
ひらいた端末に、自分のメッセージに対するものがいくつかあがっているのを確認する。同情するものから、あの店員のような反応のものまで、文頭だけに目をはしらせてゆく。
『 あなたの大切なノートを・・・・・』
――― ん?
流していた中で、ひっかかり、戻ってつなぐ。
『 あなたの大切なノートを拾いました。勝手に中を読ませてもらいましたが、あまりのすばらしさに興奮して、夜通し何度も読み返してしまいました。すばらしい才能をお持ちのかただとお見受けしました。
P・ローランド様。ぜひとも、わたくしの専属作家になっていただけないでしょうか?これは、冗談の類ではありません。メッセージを、送り返してください。わたくしの住まいに遊びにいらしてください。
わたくしの名は、ハロルド・デ・ノースといいます。 』
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