情報収集
「なんだ?もう食わねえのか?」
からかうでも、心配するでもない声をだす口へ、赤い色の残る肉を雑に切りとり運ぶのを見てるだけで、こちらの食欲も失せる一方だった。
「ケン、よく食えるよな・・・・あんな写真見た後に・・。だいたいさあ、ただの行方不明者の捜索じゃねえじゃん!『バーノルド事件』なら、先にそう言ってくれてもいいだろ?」
「先に知ってたとしても、この肉をお前が食えたとは思えねえけど」
からかうような目をむけ肉を咀嚼する男は、そんなデリカシーなどとっくの昔に、どこかへ蹴飛ばしてきた人種だ。
だが、周りをみれば同じようなやつばかりだということに、今更気付く。
今回A班が受けた《捜索補助》とは、十二年前から未解決のままの、殺人および連続遺体損壊事件、『バーノルドの森事件』とよばれるものの被害者の捜索だった。
行方不明になった若い女性が、国立自然保護区である『バーノルドの森』で遺体となって見つかるその事件は、あまりに衝撃的な事件で、だれでも知っているし、忘れない。
人探しの資料だと思って見せられた当時の事件資料には、バーノルド事件の被害者の遺体写真も含まれていた。
まだ、本物の死体さえ見たことのない若者に、それはかなりきつかった。
「まあ、これも歓迎の一種だと思っておけよ」
隣の椅子に座ったジャンが、テーブルの水差しから冷えた水を注いだコップを渡し、今度おれの知ってる、酒も飯もうまい別の店でおごってやる、と約束する。
「・・・この班って、いっつもこんな調子で、ここで仕事のミーティングしてんの?」
少し気分をもどしたザックが、食べ残していた肉を突きさし、ジャンを見る。
「まさか。ここは、特別なときに頼むだけだって」
「『レイ』とかいう奴に頼んで?」
「いや、なるべくバートに。レイに頼むと、あいつ、料金ちゃんと取ってくれないからさ」
「へえ。太っ腹な奴。・・・でもさあ、こんなとこで、うちの仕事の話なんかして、平気なのかよ?」
「ああ、ここなら、会議内容が漏れることないからな。防犯と盗聴に関しては、うちの会社と同レベルぐらいで、安心だ」
「会社とレベル一緒ってすげえなあ。・・・ああ、なるほどな。その、『レイ』ってやつの紹介で、この店はうちの会社の防犯、利用してるんだ。バートとよっぽど仲いいんだな」
「まあ、・・・そうだけど、・・・なあ、ザック、・・・おまえって、誘導尋問うまいな」
「まあね。よく、ほめられるよ」
ここまでのやりとりを見ていたケンが爆笑し、ジャンが首をふり、まいった、と席を立つ。
ポケットから携帯電話を取り出し窓際に行ってしまったジャンを見送り、これはうまく逃げられたな、と判断したザックは、ケンを代わりに捕まえる。
「で?レイって?どんなやつ?」
「おまえって、ひとから集めた情報で、印象をきめるのか?」
「え?」




