襲いかかる
「その村のおとなも子どもも、昼間は畑に出て作物を育て、貴重な家畜の世話をして、男たちはジャングルに狩りにも行った。 近くで戦争が起こっていても《そこ》が戦場にならないかぎり、普通の暮らしを続けてる。よくある村だ。おれも、――― 戦争孤児のふりして、そこに行った」
「・・・・・・・」
ケンは『少年兵』だった。
それは、誰もが知っていて、誰も本人に確認しない噂だ。
何も返せないマークに、意外そうな顔をむけた男が、いつものようににやりと笑う。
「おまえらしくねえ気の遣い方だな。ただの体験談だ。 ―― 『小規模反勢力』いわゆる、『ゲリラ』を潰しに、おれは送られた。その村に、やっかいな勢力団がひそんでいるって情報だった。が、『潜んで』たんじゃない。 その村の《住人がみんな》が、ゲリラだったんだ。無表情に仕事をこなす男も女も、笑うことのない子どもも。 ―― おれがそこで何をしたかは、とりあえずここでは触れないでおく。おまえに今知ってほしいのは、その村で感じた視線だ」
「・・しせん?」
「新顔のおれがその村についたときから、それがはじまった。《常に監視されてる感覚》だ。ただし、尾行や見張りは見当たらない」
「それって・・・」
焦点が急にはっきりとしたように、ケンの焦げ茶の目と合った。
顎をわずかに引くように、にやついた口が続ける。
「それと、エミリー・フィンチが自分を祝うための料理を、この『ドーンズ』で買ってる」
「エミリー・・・って、バーノルドの五人目の?」
「ああ。―― レイが使うってことは、この店、高級店なんだろ?おれはそういうのわかんねえけど、ウィルの意見では、女は自分の食べたいものがあれば、仕事場からも家からも離れてても買いに来るらしい」
「まあ、女性なら確かに、そういうこだわりもあるかも・・」
「でも、――― 」
ケンが次を言いかけたときだった。
カラ ン ―――
棚に挟まれた通路の終わり。むこうがわに黒い何かが転がり落ちた。
ほんの一瞬だったが、それに気を取られる。
「っつ!」「ふせろっ!!」
商品を吐きだす棚が襲いかかる。
ケンっ!! マアークっ!!
レイの悲鳴のような声をきいた。




