棚と棚のあいだ
なので、てっきりケンも同じ考えだろうと思っていたのに、あの怒りは意外だった。
――― レイに危害が及ぶのをひどくおそれているのか、なにかが今日、《起こる》と考えているか・・・
ケンの考えをのぞくかのように、その笑っているような目をのぞけば、何かに気づいたような男が、突然肩を組んで言った。
「似てて当然。実は、おれたち、遠い親戚らしい」
「ほんと!?」
「どうしてそういう嘘つくかな。それより、レイ、悪いけど、香辛料を一つ忘れてた。『サンショウ』ってあるかな?」肩をおさえられたマークが頼む。
「なんだもお、またケンに騙されるとこだったよ」
『サンショウ』探してくるとレイが棚のつきあたりを曲がって消えると、ケンが両側に高くそびえる棚に目を走らせ、ゆっくりと、カートに上体をあずけた。
木材で重厚につくられた高い棚には、ラベルをこちらに向けた商品が、びっしり並べられている。
きいたこともないソース類、何種類もの調味料、ドレッシングの瓶などがつめられた棚に、はさまれた通路にいる。
ゆっくりとケンが言葉をだす。
「・・公園にいたときと同じだな。 監視はしてるが、なにかを仕掛けようって気配はねえと思ってるだろ?」
マークはうなずいた。
店の中にはそれなりの数の客たちが、同じようにカートを引いてまわっている。
「――― おれがガキのころ、・・・ある場所に、一人でほうりこまれたことがある」
カートに積まれた商品の上にあるケンの顔は、前をみたままだった。
 




