機会をうかがう
つまらなさそうにカートを押す男の横顔を、マークはうらめしげに見る。
「正直、はじめておまえのこと観察した」
まだ痛みが残る喉元を自然と撫でていた。
すました顔がこちらをむく。
「マーク、覚えておけよ。おまえがなにか、レイにひどいことをしたら、おれはためらわず、おまえをヤる」
「・・・忘れるよ。現役警備官の発言じゃマズイだろ。それ・・・」
肩をすくめるマークににやりとしたケンが、先をゆく細い背に眼をもどす。
するとそれがふり返り、楽しそうに二人を見比べて言う。
「そっか。そうやって二人そろって同じ格好にすると、たしかにちょっと似てるかもね」
レイの言葉に、満足そうな男二人は顔を見合わせた。
ジェニファーはケンのことを《マーク》だと思っているのだから、彼女が『神様』にじかにお願いするのだとしたら、《マーク》だけが狙われるはずだ。ところが、《マーク》一人のときには何も起こらなかった。
『神様』はもしかして《マーク》の正体がわかっているのかもしれないから確認してみようぜ、と楽しそうに提案したケンと、色違いのシャツを途中で取り換えた。
『神様』が遠くから見ているとしたら、これでもう見分けはつかないだろう。
マークだけを狙う機会をうかがっているのだとしたら、今日も何も起こらないはずだ。
ただし、もしもはじめから『正しく理解』しているのだとしたら、マークとケンがそろった今日のこの機会を狙ってくる。
けれど、マークは実のところ、きょうはもう何も起こらないだろうと思っている。
《監視》はされているが、人目の多い場所にしかいないし、レイという存在が加わったのだから、こちらは三人になった。
この状態で《マーク》に何か仕掛けるだろうか?




