子どものいいわけ
しかたがないので、嫌でも視界がひらける公園に移動をしたのだが、嫌な感覚は変わらなかった。
つまり、《監視》を受けたままレイの家に来たことになる。
「 ―― 『どういうつもり』って?この家に来たことが?しかたないだろ。あのままボールを投げっこしててもきりがなかったし、もし、あの観衆の中に《呪い》を仕掛けるやつがいたとしても、どうやらたくさんの目撃者はいらないみたいだし」
「だからって、レイを巻き込むことねえんだよ」
「・・・どうしたんだよ?・・レイとどういう関係かは聞かないけど、今は仕事中のはずだろ」
「あのまま、公園で別れりゃよかったんだ」
「なら、はっきりとそう言えばよかったんだ。なのに、おまえは、口ごもった。 レイは、おまえに会えば、絶対いっしょに来ると思っている。 それがわかってるから、聞き返されて戸惑ったんだろ?彼の信頼しきった目を見て、それを裏切れないから、はっきりと断れなかった。―― 正直、驚きだな。あんなケン、っぐ、」
壁に押し付けられ、片方の腕で頸部を圧迫される。
「 いいか?おれたちの仕事に、あいつを巻き込むな 」
「っな、なら、・・・今度仕事中に彼を見つけても、声をかけないようにすればいい。いいか、彼に声をかけたのはおまえっ、・・っぐ、・・目が合ってもまったく無視できれば、ここにも来なかった」
「・・・・・・・」
見合った眼はまだ怒っていたが、壁に押し付けていた太い腕がようやくどかされ、マークは壁に沿って崩れた。
「おまたせ。さあ、買出しに、って・・・・あれ?ど、どうしたの!?」
壁にもたれて座り込むマークに駆け寄ろうとしたレイを、ケンが押しとどめるように片腕でひきよせた。
「マークのこと、レイがかまいすぎるから、腹が立つ」
「ええ?なにそれ、子どもみたいな言い訳だよ」
「おれに似てるからって、あんなやつかまわなくていいんだぜ?」
「似てる?あんまり似てないよ」
マークの目の前で、ケンがレイを背中から抱え込み、その肩口に額をおしつける。
「なら、いいや。・・・マークのこと、ゆるす」
「もお、ほんとひどいなあ。―― マーク、ケンのこと許してやってね」
飼い主のように、肩にある男の黒い髪をなでる。
その二人を見上げ、まだ壁にもたれて呼吸をととのえる男は、苦笑するしかなかった。
 




