ケンカしてキャッチボール
マークははじめ、近い外見のせいの親近感かとも考えたが、そういうわけではないとわかったのは、ケンの思いがけない一言だった。
おまえはおれを、観察しねえから
なるほど。確かにケンはいろいろ噂もあり、謎の多い人物として、ある意味注目される存在だ。
彼に興味がある人間に、彼の人間性を聞かれることがよくある。
だが、マークはそれに答えないようにしている。
知りたければ、付き合ってみればいいと返すのだ。
マーク・リーは、そういう男だ。
「―― それで、帰されたのはいいけど、なぜか、ケンカの代わりにキャッチボールがはじまって」
公園のベンチで仲良く三人、並んで座っている。
顔の半分まで巻いていたマフラーをとったレイが、笑ってケンをふりかえる。
「ぼく、見つけたとき、きっと仕事中だろうから声かけないでおこうと思ったら、ケンが声かけてくるから驚いちゃったよ。ケンカ中だったんだね。―― でも、もう仲直りってことでしょ?」
微笑むレイにケンが鼻をならした。
「べつに仲直りなんてしてねえ。 ―― それよりレイ、仕事に戻らないのか?」
二人に挟まれて座ったレイは、均等に両側をみて微笑んだ。
「ぼくも、早退なんだ。これから家に帰るとこだよ」
「・・・そっか。一人で平気か?」
「うん。・・・ねえ、ケン、マークといっしょに、うちにこないの?」
「え?・・いや、だって、・・ほら、この前、アメリの店で、しばらく来るなって」
「あんなの冗談だよ。どうしたの?いつもはケンのほうが押しかけてくるのに」
「いや、でも、・・・今日はやめる」
「どうして?」
「・・・・・」
この二人のやり取りを見て、マークは心底驚いた。
だって、あのケンが、こんな子供みたいな会話をして、相手の誘いをはっきり断れずに、困っている。
 




