突入
先を急ぐことを余儀なくされた一団が、反対側にある奥まった非常用の階段から列をなし、動きを止めることなく一気におりてゆく。
階下につけば先頭の警察官の指示にしたがい、ゆっくりとニコルが移動。銃を用意するようルイに合図した。
壁の向こうへ頭を出し、何もないことを確認したあと、まず先頭班のニコルがふみこむ。
「まだエントランスだ。ドアがもうひとつ」
後方の班に聞こえるよう、見たままのことを口にする。
両開きの大きな白いドアに耳をつける。中の気配はない。
「このむこうにあるのが、宿泊施設にあるホール会場だ。ノアたちはもう入ってるのかな」反対側にはりつく警察官が目を合わせながら、それをそっと押し開けた。
「・・・暗い」
後方班のルイが開いたドアの中の感想をもらし、文句を口にもせず取り出したライトで中を照らす警察官たちに、ザックは身を寄せたままついて行こうと決めた。
真っ先にドアをくぐったニコルは、いきなり顔を撫でられ、あやうく声をあげそうになる。
撫でたのは風にゆれる布だった。
「・・どういう趣味だ・・?」悔し紛れのように、その部屋の装飾に、文句を言う。
ライトでぐるりと照らした部屋全体が黒い布で覆われ、高い天井からは何枚も黒い布がだらしなく重なり合い、たれさがり、押し入ってきた人間たちの顔を撫でている。
足元には、ロウソクのはいったすすだらけのランプが所々に置かれ、絨毯を黒っぽく浮かび上がらせていた。
「・・・なんか、変なにおいする」これって『クスリ』のにおい?ときくザックに同じ班の警察官たちはすこし笑った。
「こんな焦げ臭いなんて、ありえないね。普通になにかを焼いて焦げたんじゃないの?」
「でも、『お香』みたいな甘い香りもするわね」女の警察官が鼻にしわをよせる。
漂うにおいにのせたように、なにやら唄うような抑揚のない女の声も響いてくる。
それについても声をひそめた感想がやりとりされるが、誰もそれが、何をいってるのかは、わからない。
「わかんないけど、嫌な気分になる旋律だなあ」
ルイが身をひくくし、あたりに神経を配り、ひらひらと空調で揺れる布をにらみすえ、耳をかたむける。
あの、声のほうに進むべきか。
「聖歌か?」警察官がきく。「いや。・・・聖堂教じゃないな」誰かがこたえる。
「でも、言葉の響き、似てるきがする」
ザックは思ったことを口にした。
古代語とよばれる、今は使われない言葉の響き。
おおおおお!!!
いきなりの叫び声とともに、黒い布から白いなにかが飛び出した。




