いい迷惑
「聞いたか?機嫌が悪そうな男だってさ」
ルイが微笑みかけたニコルが、微笑み返して言う。
「おれはいつだってご機嫌だろ?」
「そうだっけ?ザック、どう思う?」
「・・・・・緊張で吐きそう」
エレベーターの箱に詰め込まれた警察官たちに抑えた笑いがおきる。
「安心しな。みんないっしょだよ」
警察官の一人が声に出しなぐさめるが、ザックは腿につけたホルスターの中身を確認するようになで、周りをにらむ。
「・・・いっしょじゃねえって。あのさ、おれ、『確保』のために出るの、初めてなんだけど」
わーお、と反応した警察官たちがいかがわしい例えを持ち出しながら、初体験おめでとう、と手をたたく。
同僚のルイとニコルは、そういやそうだ、なんてのん気に笑い、ザックの背中を強く叩いた。
エレベーターが止まり、開いたドアのむこうに、まっすぐに裏の建物へと続く通路が見えた。
目の覚めるような朱色の絨毯は下のレストランとは違う空間であると主張している。
箱からすみやかにおりた警察官たちが盾をかまえ、ひとあし先に二人だけでむかった上司たちの背中を探すが、むこうにのびた通路の先、入り口のドアは開いたままで、人の気配はない。
まさか・・、とニコルがつぶやき、盾を構えた警察官たちが先にゆく。
「まったく。―― 思った通りだ」
開いたままだったドアをくぐれば、ごつい男たちが折り重なるようにして倒れている。
倒れた男たちの身体から銃器や刃物をとりあげた警察官たちが、苦笑して、いいコンビだと、上司たちの仕事をほめた。
「バートはさ、ノアと一緒だと、おれたちが言ったことなんかすぐに忘れるんだよ」
「ノアも、バートといっしょだと若くなった気になるって言うよ。多少のムリがきくってね」
ルイと警察官のそれにザックが「こっちはいい迷惑」とこぼし、皆の同意を得る。




