準備 (ザックたち)
※※
ノアが率いる薬物犯罪防止課が突入装備でレストラン近くのドーナツ屋に、専用車五台でのりつけ、店を『貸切』にし、合同作戦という名目でいっしょに突入する作戦には、捜査に同行の許可がおりた警備官の強行隊A班から、班長のバートとは別に班員が三名いた。
黒い格好の人間で埋まったドーナツ屋のテーブル席、警察官に混じり、警備官三人は奥の隅に座っていた。
「なーんで、三人しかダメなんだよ」
「ザック。ドーナツやるから静かにな」
「口のとこに砂糖がついてるよ。ほら、まわりの警察官の人たちに笑われてるぞ」
子どもをあやすようなそのやりとりに、近くの席に座る警察官たちが本当に笑う。
ちくしょう、とルイに渡されたナフキンで口をぬぐったザックが、ニコルに差し出されたドーナツをひったくって喰いちぎる。
入り口近くのテーブルで、上司であるバートと警察官の責任者であるノアが時計を合わせるのをながめ、時間がせまっているのを知る。
苦いコーヒーで甘いものを流し込む。
「いいか、絶対に、先に行くなよ」
ニコルが愛嬌のある大きな眼を、威嚇するようにザックにむける。
わかってる、と答える新人に二枚目の紙ナフキンを渡しながら、のんびりとルイがつけたした。
「クスリでぶっとんでるヤツは、信じられないことするからなあ。ふつうの人間をあいてにするつもりじゃだめだからな」
「はあ?だって人間だろ?」
「違うな」「野生動物より狂暴だぜ」「発砲できる状態にしておけ」
ナフキンを丸めるザックに、まわりの警察官がいっせいに反論する。
ニコルがまずそうにコーヒーを飲みながら、片方の手の指を三本立てた。
「三人しかうちが出ないのは、彼ら並の防御装備がないおれたちを警察官が守ってくれるのに、その数が限界だからだ。 ヤバイと感じたら、守ってもらえ。彼らの後ろに逃げ込むんだ。特殊防弾盾のありがたさを感じられるぞ。―― それと、おれたちも今回は拳銃を所持してるが、警察官は所持していても使うことはない方針ですすめるようだ。 おれたちもできれば使うことがないようにする。おまえはとにかく銃をしっかり身に着けておくんだ。 むこうに取られでもしたらしゃれにならない。あと、ヘルメットは必ずあごヒモをしっかりかけろ。何を投げられるかわからないぞ」
「・・・はい・・・」
ようやく、相手をなめていたことを思い知らされた新人がおとなしく返事をし、周りがいっせいに立つのに合わせ、ヘルメットをしっかりとかぶった。
※※
 




