貴族様を招待
結局は《どこかから》の圧力によって、警察では再捜査はされないことに決まれば、納得のいかない連中はむっつりと口を閉ざすしかなくなった。
ただ、軽犯罪部のジャスティンが、部内の机や椅子に当たりちらして帰ったことは、誰もがしるところだった。
そのジャスティンが、警備官たちといっしょに、とめられた捜査をしていたのだ。
電話口の若者は興奮していたが、最後に小声で「・・おれがこっちに入って捜査してたってのは、」と付け足すのを笑い飛ばし、部署がちがうだろ、と安心させてやった。
自分が見聞きしたことの報告を、上司よりも信頼がおけるという理由でノアにしてきた若者を、守るぐらいの覚悟は、いつでも持っている。
「とりあえず、誰かに告げ口されるのも面倒だから、しばらく黙っておけって言ってやった」
つまらなさそうに首をかたむけた警備官が、前をみたまま上着の中に手をつっこみ、「これが、サウス卿からの『証拠品』だ」と、いきなりノアに差し出してきた。
二重になったその小さなビニール袋をありがたく受け取れば、予想の倍以上の量がはいっている。
「こりゃまた、気前のいい分量だな」
「袋にはきっとローランドの指紋がついてるだろうし、これをもらった『貴族様』も必要なら指紋をだして証言するらしい」
「これを親父さんに渡されたウィルは、驚きすぎて倒れる寸前だったみたいだな」
出所をきいたとき、ひさしぶりにノアは本当に驚いた。ウィルの父親といえば、現在でも《本物の貴族様》で、A班にとってみれば身内同然のはずだ。
「サウス卿はローランドが書いた芝居に金を出してるだけだ。よせばいいのに、やつは自分の主催する『パーティー』に来てくれと、『それ』を渡してきた」
「レストランの裏に、本物の貴族様を『招待』か?」
馬鹿なことしたもんだ、と口ひげをなでるノアは、これで、ずっと追っているギャングのクスリのルートがまたひとつつぶせると口元をゆるめた。




