レストラン
レストランから少し離れたパーキングにとめ、少し歩くことになる。
「店の表から入っていいって言われてても、さすがにこの格好じゃ入りにくいしなあ」
ジャンの遠慮を知った言葉に、いいじゃねえか、とケンが面倒そうな声をだす。
「バートがいいって言ってんだから、《レイ》が言ってんのと同じだろ」
「おまえのその短絡思考がうらやましい。おれなんか、ターニャの誕生日にここの予約とりたくてバートに頼むのを、どんだけ悩んだことか・・」
ニコルの妻がターニャだという名前だとザックが認識したとき、建物の裏手についた。
裏口は分厚い金属製の扉で、キーロックはもちろんのこと、防犯用のカメラも辺りに死角がないよう、三台ほど取り付けられている。
ジャンが携帯電話でだれかとはなすと、中から扉が開いた。
出てきたのは蝶ネクタイをし、黒い髪をきれいに整えた眼鏡の男だ。その顔が、ザックを見つけ、嬉しそうに笑う。
「そちらが、新人さん?」
にやり、とした顔がどうにも意味ありげで、答えるべきか迷うザックの肩を抱き、ケンが「だからってなめんなよ」なんて勝手に答えた。
ふかふかの絨毯におどろきながら眼鏡の男を先頭に、奥へ進み、ようやくひらけた場所に出れば、シンプルなソファと木製のカウンターがあり、壁によりかかり新聞を読んでいた男がそれをカウンターに置く。
「遅かったな」
「早かったな。呼び出しされたっていうから、もっと時間かかるのかと思った」
ジャンの言葉に何も返さないバートが、カウンターに納まった眼鏡の男から新聞の代わりのように分厚い封筒を受け取った。
ウィルが小声で、来月末に予約を取りたいと眼鏡の男に声をかけ、ノートを確認した男に、二割増し料金でどうにか取ってやると言われている。
この眼鏡の男が、さっきニコルたちが話していた、バートのツテの、『レイ』という男だろうか?こんなに若いのに、この店の支配人?昔、一度だけ家族で行った旅行先の高級レストランには、いかにもこの店を仕切っていますという顔の、歳のいった男と女が待ち受け、名前を確認した後に、そばにいる若いやつに指示を出していた。
――― そういえばこの店、ほかの店員いねえな・・・。
眼鏡の男がいかにも営業用という声をだす。
「ようこそおこしくださいました。みなさまのお部屋は階段をあがっていただき、右手のお部屋でございます。―― ちなみに新人くん、この時間この店は、まだ営業時間外だし、わたしは『レイ』じゃないよ」
「え?」
心を読まれたようで、ひどく間抜けな声がでてしまった。
みんなに笑われながら、広く派手なつくりの大理石の階段をのぼって右にまがり、鈍い金色の取っ手がある両開きの大きな扉の前に来る。
ケンが両手で勢いよくひらき、現れた景色に、ザックは、映画でみたことあんなあ、という感想をもつ。
古風なデザインの照明と窓の形。分厚く重そうなカーテンと、同じ色味の深く青い絨毯。大きな細長い楕円形のテーブルに、背もたれの高いつくりの椅子が十二脚整然と置かれている。




