貸し切り解除
「はあ。まったく、こんな昼間からこんな場所でなんて、ほんとに何考えてんだか」
「何を考えてるのか本人に聞けばいいだろ。―― 言葉が通じればの話だけどな」
このやりとりも、ほかの警察官からみれば自分の態度は、ひどく『失礼』なものになるらしいが、バートはこれ以外の態度をとれないのだ。
はじめて会ったときにはさすがに、「十代の子どもにこんな世界の仕事をさせるなんて、警備会社ってのはイカレてやがる」と仲間の警察官たちと怒って相手にもしてくれなかったが、それがいつのまにかこんな、組織をとびこえた関係になっている。
「なんだ?おれ、おかしいことでも言ったか?」
あいての口もとが緩んだことに気づき、確認する。
こちらは仕事中はいつだって至極真面目だ。
「いや、おまえはいつだって、同じ態度だって感心したのさ。―― おれが仕入れた話でも、『文化人』っていうのか?その仲間内じゃローランドは有名らしい。あいつの言ってることはでたらめばっかなのに、本人はそれを真実と思ってるらしい。クスリのやりすぎでまともに頭がうごかないんだろうってな」
「クスリのせいばかりとかぎらねえだろ」
言い放ち、飲みかけの真っ黒なコーヒーをのみほした男は、テーブルを離れた。
お行儀のいい男に微笑んだノアは、猫背の身体を揺らすようにそのあとにつく。
口ひげを整えた手を軽くあげれば、他のテーブルをうめつくしていた黒い服の人間たちが、いっせいに立ち上がった。
無言のまま、ヘルメットをかぶり、銃器を身体につけなおしながら整然と出てゆく彼らを見送った店主が、最後の一人に「まいど」といって、ドアから《貸切》の札を取った。
 




