捕まえてほしい男
「理解できないどころか、よみがえらせた死者と契りを結ぶだとか、おかしなことまではなしだし、わたしは耐えられず、逃げるように城をでた。・・・わたしが隠したかったのは、フィリップのそんな側面だ。ファイルにはそのことはのせていない。・・・わたしが引き合わせなければ、そんな側面が高じることもなかっただろう。―― だからわたしは悔いているのだ。あんな『教会』に閉じこもってあんなガラクタに囲まれ、あんな男とだけ会話していれば、・・・最後は気もおかしくなってしまうだろう」
長い話を終えた老人は深い息を吐く。
だが、息子はすかさず質問した。
「で?『女王のダンス』のほうは?」
そっちに隠し事はないぞ、と父親も即答する。
「―― 十年ほど前、新作としてわたしのところに『女王のダンス』の紹介があった。わたしはあれの演出家と知り合いでね。彼が久しぶりに、わたしに助成金の話を持ち込んできた。久しぶりにすばらしい芝居になりそうだと鼻息も荒くのりこんできて、説得された。物語の結末を妻が喜んだので、ひさしぶりに話にのった。―― あとで知ったのだが、その、『女王のダンス』の脚本を演出家に売り込んできたのが、・・・ハロルドだったんだ」
「サウス卿も、そういう文化的な事業に何かかかわってるの?」
聞いたことないなあ、とウィルが小声で言ったとき、向こうから、お茶の支度が整ったという女の声が響いてきた。
切り替えたように緊張をとき、素直に妻の声にこたえたサウス卿が、いたずらを思いついたように息子に言った。
「なあ、ウィル、―― これはまた別口の話だが、その『女王のダンス』の脚本を書いた男を捕まえてほしいんだが」
 




