《聖なる場所》
「・・・フィリップはあの城の『教会』に引きこもって出て来なくなり、大学もいつのまにかやめ、あれだけ熱中していた発掘作業にも行かず、そして、 ――― クリスティーナとの婚約を、一方的に破棄してきた」
いきなり、一通の書簡をもって。
「それは、ゴードンの筆跡でしたか?」
二コルの問いに、「いまいましいことにな」とサウス卿は歯をむきだすよう発音した。
「わたしは怒り、ハロルドとも、フィリップとも、二度と会うつもりはなかった。だが、・・・あんな最後を迎えてしまい、フィリップには謝りたいとも思った。・・・彼の葬儀に行こうとしたが、取り仕切ったのがハロルドだと聞いて、行くのをやめた。葬儀に行った大学の関係者の話だと、ちょっと変わったものだったらしい。彼の棺はなく、代わりに小さな木の人形が置かれた台に献花して、それで終わり。 遺体は彼の故郷の墓場ではなく、彼が望んだどこかに埋葬するって話だったから、聖堂教から何かに宗旨替えしたんじゃないかってことだ」
「その人形って、・・・中に、何か入れられそうでした?」
二コルが嫌そうな顔で聞くのに、サウス卿は、わからんね、と肩をすくめた。
「とにかく、――― わたしの印象では、ゴードンは最後まで、ハロルドにとりこまれてしまったというものだったが、・・・そう感じていたのは、わたしだけだろう。―― よく考えれば、彼は最後まで自分のしたいことをして人生を終えた。彼の両親は最後まで面倒をみたハロルドに感謝していた。クリスティーナは婚約破棄されてから三年ほどたって、新しい恋をした。 最後まで納得いかなかったわたしをのぞき、これは、それほど『ひどい話』ではないはずだ。―― わたしは今日まで、そうやって自分を納得させてきた」
なのにどういうことだ?と警備官たちを見上げる。
「――― 静かに眠っているはずのフィリップ・ゴードンと、バーノルドの森の哀れな犠牲者がつながっただと?そんなばかな話、―― それじゃあまるで、ハロルドとフィリップの、くだらないおとぎばなしだ」
言い捨てた父親に、「おとぎ話って?」と息子は問う。
すぐに答えようとした口を一度閉じ、あきらめたように、はなしだす。
「・・・さっきも言ったが、ハロルドがつくった《教会》には、世界の各地で集めたという『神様』があった。そのほとんどがいわゆる『原始宗教』だ。古い大陸で自然にうまれでた、人間の元をうかがい知るような、ひどく生臭いものたちだった。―― そして、フィリップも、その手の《古い宗教関係》の物語や書物から、遺跡発掘を成功させていた。 彼によると、バーノルドの森こそ『死者と生者をつなぐ』ことができる、《聖なる場所》であったらしい。 ふたりは、同じ価値観を持ち合わせていた・・・」
居間の暖炉の炎に照らされて、興奮したように唾をとばすようにいやらしくしゃべり続けた二人のはなしは、聞くに堪えないような生々しい表現で、生と死を冒涜するような内容ばかりだった。
 




