隠す
「『関係』というか、劇場で上演されるもので、気に入ったものには助成金を出すことにしてるのさ」 知ってるだろう?うちは昔から文化奨励の寄付を、といいかけるのを息子は片手を振ってとめた。」
「―― なんで、あの芝居なんだい? なんで、《その芝居》 に、絡んでるのか、教えてもらうよ」
強い口調の息子を、顎をひいてうかがった父親は、引き結んだ口をもぞりと曲げ、先ほど妻が消えたドアをうかがった。
「・・・どうやらわたしは、知らない間に何かに巻き込まれてしまっているようだな」
父さん、と静かに息子がよぶ。
「―― 本当に、『巻き込まれて』るだけ?一枚でも二枚でもかんでるんなら、今のうちに白状したほうが身のためだよ」
「・・・半年振りに会った父親の身の潔白も信じないで、いきなり自首をすすめる息子がどこにいる?」
「ここにいるよ」
仕返しを受けた父親は、笑う気配もない息子の顔を見つめたまま静かに言った。
「―― おまえが、この道を選んだことに賛成したのは、お前なら、正しい『眼』を持ってやっていけると思ったからだ。おまえの眼に、わたしは容疑者に映っているか?」
意外な告白を耳にしてしまった息子の顔が、一気に赤く染まる。同僚の視線を気にするように顔に手をかざし、どうにか返す。
「・・・いや。とにかく、これは、―― 馬鹿なぼくが、十二年前に参加してしまった犯罪の捜査なんだよ」
「なんだって!? バーノルドのか?―― それにフィリップが関係してるって?」
「まだ、はっきりはしていない。でも、とてもおかしなかたちで彼は《利用》されてるんだ。そしておなじように、『女王のダンス』もね」
腰を浮かしかけたサウス卿が、あらためて、息子の顔をながめ、どうしたことか口元をゆるめた。
「ああ、ウィル。おまえ、すっかり、犯罪と対立する男の顔になったじゃないか」
抗議しようとした息子の言葉を遮さえぎり、父親は座りなおすと、改まった声できりだした。
「―― 聞かれなかったら、言うつもりはなかったんだが、これは、・・・はなすべきことだ」
「そういうのを、『隠す』っていうんだよ」
咎める響きの息子の声に、悪かった、と謝り、足元に視線をおとす。
 




