ちょっと 父さん (サウス卿の証言)
それを笑うように、ニコルたちにも椅子をすすめ、サウス卿は種を明かす。
「久しぶりに電話してきた息子が固い声で、仕事に関係することで、このわたしに確認したいことがあるなんていう。我慢できなくてね。―― バートに直接電話して、どういうことなのか教えてもらったんだ」
息子が勘弁してほしいというように、額をおさえ、離れた椅子に腰かけた仕事仲間の同情のこもった笑いをもらう。
当の父親は、気にするなと息子に微笑みかける。
「・・あのさ、会ったら、ちゃんと説明するって言っただろ?」
「こっちに来てから説明をされても、こんなにちゃんとしたものは渡せなかっただろうな」
いいながら、サウス卿は立ち上がり、奥にしつらえた書棚のほうへ移動しすると、ゆっくりとした動作でファイルを棚からとりだして戻る。
「―― わたしももう、それほど自分の記憶に自信がなくてね。―― うちの有能で頼りになる執事に作らせたものだ」ゴードンとの出会いから、ハロルド・デ・ノースに紹介するまでの経緯と、彼に関する調書がまとめてあると説明し、少し困ったようにつけくわえた。
「・・・そこにも記したが、フィリップはいろいろな大学から、貴重な本を勝手に持ち出している。そういう道徳観念は、どうにも薄かったんだ」
これを渡すんだから、いまさらクリスティーナに、ははなしをききにいかないでくれ、と警備官たちに頼む。
受け取った息子はうなずいて、すぐにファイルをひらいた。
椅子に戻ったサウス卿にニコルが顔をむける。
「ノース卿とは、今でもお会いになるんですか?」
「会う必要もない人物には、会わないさ。立場上で会いたくもない人物といつも笑顔でいるんで、余分な愛想は残っていなくてね。―― ああ、でも、十年ほど前に、会ったな」
ゴードンが亡くなってからはその一度きりだと息子を見た。
「劇場で、『女王のダンス』というロングランがあるだろう?あれの初演に招かれたら、ハロルドがいてね。驚いたよ。あんなに人がたくさん――― なんだ?・・・なんでそんなに詰め寄ってくるんだ?きのうのバートといい・・」
「ちょっと、父さん、『女王のダンス』とも関係してるのかい?」
息子が椅子からめいっぱい膝をのりだしている。
残りの二人も真剣な顔をむけていた。
 




