聞きたいのは
「この人が教えてくれるわけないじゃない!」 息子を抱擁しながら椅子に泰然としている白髪の男を指すと、後ろにいる二人に気付き、にこやかに挨拶をした。
「ニコル!おひさしぶり!ターニャはお元気?そうよかった。こちらのかわいい男の子が新しく入った?ザック?よろしくね。ごめんなさい。今日は名前を貸してる病院のパーティーに出てたものだから。お食事はまだでしょう?ちょうどいいわ、お夕食を召し上がっていってね。他の方は?バートもルイもしばらくお会いしてないし。ああ、ジャンとレイには、えっと、どこかのパーティーで会ったのよ。どこだったかしら?そうだ、とりあえずお酒よね?え?飲まないの?仕事中?そう。残念ねえ。食事もいい?なに言ってるの?ウィル、家族と友達と一緒にとる食事がどれだけ大事なものかわかってるでしょう?ねえ、ほら。ニコルは話がわかってるわ。ああ、じゃあお茶を、ザックはお菓子を召し上がるわよね?焼き菓子よ。うちのアンがつくるお菓子たちは最高よ。それと、お茶はたしかこのまえ、うちの農園で―― 」
嵐のように去っていった女の背を見送り、小さくザックがつぶやく。
「・・・すげえつよそう・・・」
ウィルがあきらめた笑いを浮かべ、二人に言った。
「だから、言ったんだよ。これで決定だ。ぼくたちはこれから夜まで、ここにいなくちゃならない」
当然だ、とウィルの父親であるピエール・デ・サウス卿は機嫌よさそうに両手を腹の上で組む。
「―― 半年以上帰ってこない息子がようやく来たんだ。そのうえわたしの話を聞かないと仕事がすすまないというんじゃ、ここに留まるよりないだろう? さあ、仕事をしたければ、おまえの初恋の相手は誰だか白状するんだな。 ―― わたしが思うに、世話係だったクリスティーナだったんじゃないか?お前は彼女のスカートの中に入るのが好きだったし、寝たふりをして抱っこされて、」
「父さん。もういいから。あのね、そんな話をしに来たんじゃないんだ。もっと大事なことで、―― 聞きたいのは」
「クリスティーナは、わたしが紹介した男と結婚する予定だった。大学で考古学を教える男で、まじめで勉強熱心な若者だった。そんな男が、わけのわからない叫び声をあげながら、タクシーの前に飛び出して死んだ。聞きたいのは、その男、フィリップ・ゴードンについてじゃないのか?」
足を組みなおす白髪の男を、呆然と三人は見た。




