№16 ― ウィルの両親
№16
ウィルは、正直ここに来たくはなかった。
向かい合った椅子には、生まれながらに威厳を身につけた男が、こちらをじっと見据えている。睨まれていると言ってもいいだろう。
遺伝という財産で自分も譲り受けた広い額をさらし、きれいに色の抜けた白い髪をもつ初老の男は、しばらく会わないうちに、数年分歳をとったように見えた。
だが、その中身は相変わらずとしか言いようがなかった。
《にらめっこ》もいいかげん嫌になったので、高い天井を見上げてため息をつけば、背後から押さえた笑いがもれる。
振り返って見た仕事仲間は、顔をふせ、片手をあげて謝る。
「・・・だから、ぼくはいやだって言ったんだよ」
「がんばれ、ウィル。あちらにいるのは、きみのご尊父だぞ」
かがんでささやく、ニコルのわざとらしい言葉が腹立たしい。横で同じようににやけている新人も同様だ。
「こっちの身にもなってみろよ?自分の家族に、事件に関わりある話を聞きに来りゃ、『じゃあ、おまえが四歳のときに好きだった女性の名を言ったらだ』なんて言い返す家族、世の中にいるか?」
「ここにいるだろう」
「父さんはだまってて」
我慢しきれずに、ザックがふきだし、ニコルも声をあげて肩をゆする。
そのとき、部屋の大きな扉が勢いよく開き、ドレスの裾をなびかせる勢いで入ってきた女が、ひろげた両腕を息子にむけながらさけんだ。
「ウィル!!もお!来るなら来るって、先に連絡してちょうだい!」
「母さん・・、父さんには昨日、ちゃんとしたんだよ」
さらにややこしい状況をつくりだしそうな家族が現れ、ウィルはこめかみを揉んだ。




