木彫りの人形
「今から、その、録音を止めてちょうだい。 いい?これには《儀式》と同じだけの効果があるわ」
興奮しすぎで震えるように発音する女が、脅すように突き出す手にあるものは、よくみれば、木彫りの人形のようだ。
長さ十五センチほどの灰をかぶったそれは、炭のように黒かった。
立っているのか座っているのか、半分は顔。半分は足のようだ。
見たこともない造形様式で、顔と思われる部分に大きな目玉のようなものが三つ、見て取れる。
ジャスティンは、握った機械を停止させ、そのままポケットにしまった。
見届けた女がうなずいて、《マーク》をにらみすえる。
「さあ、あなたの名前を教えて」
鼻先につきつけるように、人形に名を教えるよう命じる。
男は眼鏡を押し上げながら、「マーク・リー」と簡潔に答えた。
「歳は?」
「何かの入会申し込み?24歳だよ」
「ほんとに?もっと若く見えるわね。まあいいわ。仕事は警備官。間違いない?嘘を言うと、後でひどいことになるわよ」
その脅しにかるく微笑んだ男は、ジャスティンに聞けばいいと相方をさした。
「おれも入会したほうがいい?」
本当はいやな緊張をしているが、軽い声をだす。
「あなたは、『証人』よ。これから起こることを、よく見て、そして証言するのよ」
ジェニファーは、魔女のような笑いを浮かべると、木の人形をひねった。
ぎゅい、といやな音をだした人形は、半分になる。
 




