『炎』
「―― じゃあ、ここで、もし、わたしがあなたたちに何かをしても、反撃できないってわけね?」
「できないでしょうね。なにかするつもりですか?」
「どうかしら・・・入っていいわ。ここがわたしの部屋」
警戒をあらわにしながらも、獲物をとらえたような視線と笑みをにじませて、ジェニファーは扉を押し開けた。
「・・・・おい、なんだ?・・・」
扉の中を目にしたジャスティンが思わず口にする。
柔らかい光があふれる廊下から一転。そのむこうは《つくられた闇》だった。
「どうぞ。遠慮しないで入ってよ」
ドアを押さえた女が笑う。
《マーク》がそれにこたえるように笑顔をむけ、足を踏み入れたので、しかたなく、ジャスティンも後に続く。
電灯はなく、足元のところどころに、年代物のランプが置かれている。天井からは、幾重にも黒く重い布が垂れさがり、どこが壁かわからないどころか、部屋の広さも見当がつかない。
床まで届いたその布で、即席の迷路のようになっている。
薄明りを頼りにおそるおそる迷路を進むと、ぽかりとできた広い空間にたどり着いた。
床には、何本ものロウソクが無造作に立てられ、いくつかは火をともしたままだった。
流れ落ちる蝋がそのまま白いかたまりをつくって、デザインを施したしゃれた床をよごし、部屋の真ん中だろう場所には、なにかを燃やした灰がこんもりと溜まっている。
「危ないね。部屋で焚き火なんて」
《マーク》 のそれに、ジェニファーは鼻にしわを寄せて答えた。
「焚き火じゃないわ。 ―― これは、《儀式》のための『炎』を呼び出したの」
「儀式?なにの?」
「神に捧げるものよ」
聞き返した男を馬鹿にするように肩をすくめて笑うと、足元に転がる小さな動物の、頭蓋骨を蹴飛ばした。
――――― まさか、あれをここで燃やしたんじゃ・・・
動物好きの男は、女に微笑みかけられて、寒気がすると同時に、怒りがこみあげる。




