この辺じゃふつう
「おまえ・・・普通の服も持ってんだな」
休暇のときでも同じようなカーキ色の服以外見たことがない。
ケンはうそくさい微笑みをのせ、どこからとりだしたのか、ふちの太い眼鏡までかけてみせた。
「ジャスティンさん、ぼくだって、女性と楽しくおしゃべりするぐらいはできるんですよ。すすんでしたいとは思いませんが、今回は特別です。―― 若者に信頼されている警察官のお手本みたいなあなたと一緒に仕事ができるなんて、光栄です」
きいたこともないおだやかなしゃべり方で にっこりと、見たこともない笑顔をむけられて、寒気がはしる。
だが、きゅうにいつものケンにもどると、おまえに説明して喉と口の準備はできた、とシャツの襟元を緩めた。
車の速度がおとされ、みあげた高台の先をみて、思わず、でかい家、とつぶやいたジャスティンに、この辺じゃあ普通だろ、と元のしゃべり方でケンが返す。
白い門がゆっくりと自動で開き、のぼった先のポーチに黒い服の男が待っていた。
年齢と体格から、警備員ではなく使用人だろうとジャンが予想したとおり、車をお預かりしましょうと、こちらの身分証を確認してから言った。
玄関の大きなドアをノックすれば、大柄な女が出迎え、またしてもジャンの身分証を確認してから招き入れた。
ホールのような場所をすぎ、四人はそのまま客間へと通され、ジャンとウィルが腰掛けたソファの後ろにケンとジャスティンが立つ。
お茶とコーヒーどちらが良いかという質問にどちらもいらないと断ると、しばらくしてから、この家の主人の登場となった。
 




