心より歓迎
『A班』とかかれたプレートが光るドアのむこう、そこはまったく普通の会社のように、机も椅子も電話もそろった明るいオフィスで、腰掛ける男たちも私服にきがえた今、のんびりとした昼食あとそのものだった。
先ほどあれだけ緊張を要したこの部屋の責任者の姿はないが、代わりに先ほどはみなかった男がいた。
「おう、待ってたぜ」
立ち上がり、ザックに握手を求めてきたのは、濃い金色の髪をした男だった。
握った手をそのままもちあげ、目をあわせて微笑む。それはどこか相手を安心させる眼だった。
「先に言っておくからな。ケンの誘いにはのるな。ニコルは頼っていいが、へんなところで細かい。ルイの笑顔にだまされるなよ。ウィルはああみえて、荒っぽい。バートはあのとおりの男で、おれが唯一この中でマトモな人間だ」
いっせいに、ブーイングがおこる。
「副班長のジャン・クレイグだ。ものずきなおまえを心より歓迎」
さぞかし女にもてるだろうと思わせる笑顔をむけられ、よろしくと返す声が小さくなる。
気にした様子もなくジャンはザックに話しかける。
「おれがあそこにいなかったのは、別に恋人に電話してたからじゃねえからな。これからおまえの歓迎会をする場所を、おさえてたんだ」
なるほど。たしかに『マメ』な男のようだと納得し、店名を聞いて驚いた。
「ええっ?そこって確か、なかなか、予約とれねえって・・・」
しかも、高級店の部類に入る。
自分の懐ぐあいを思い出し、ここの男たちはそんな場所で酒をのんでいるのかと、先を考えて眉をしかめれば、「バートのツテだよ」とウィルが前髪を払う。
「すげえ。そういうところにも顔がきくんだ・・・」
思わず感心するのに他の男たちがさもおかしそうに視線を交わす。
「まあ、くわしくはこんど話すけど、今日は会社の金だ。気にすんな。 あと、本当は、ちゃんとした格好でなければ入れないそこに、おれたちはこの格好でいける」
ジャンが自分のTシャツとジーンズを指し、いちばんひどいのはケンだけどな、とその上下モスグリーンの服装を顎で示す。
「しかたないんじゃないの。私服と作業服の違いが、わからないんだから」
言ったウィルをケンがにらみ、こいつだってそんなかわらねえだろ、とザックの、疲れたシャツとカーキのパンツを指差した。
恥ずかしいが、否定しようがない。




