本物のお嬢様
「・・・いいか、ジャン、おれは女にもてないんじゃなくて、」
「もうすぐジェニファー・ハワードの家につくよ」
いきなりウィルが告げる。
「―― 誰だって?」
いきなり出された名前に眉をしかめ、ケンを見る。
「湖に沈んだやつらの仲間」
「・・・おまえら、もう・・調べたのか?だって、このごろバーノルド事件の『掘り当て』やってるって聞いたぞ。よくそんなヒマあったな」
「ヒマなんてないよ。おたくと違って効率的に動けるってだけで」
うらやましかったら転職したら?とウィルがルームミラーの角度を直しながら、軽く言う。
むっと押し黙ったジャスティンがにぎりしめたままの缶をとりあげたケンが、おれとバートでゆうべ《芸術運動仲間》のとこに行ってみた、とプルトップをあけた。
ジャンが、「おれも今朝聞いたんだ」とジャスティンに話し出す。
「その《芸術運動仲間》のなかでも、今回の四人組はちょっと知られたメンバーだったらしい。カップル同士の四人組で、そのうちの一人、リーダー格のピートって男の恋人は、高級住宅地に住むお嬢様だ。 あの中で毛色の違う彼女は、仲間内で注目されてたみたいだな。 ピートとの関係がいつまで続くか賭けの対象になったけど、みんなそろって《続かない》に賭けて成立せず。ピートは元々女グセの悪い男で有名だった。 ―― だからか、ほかのやつらいわく、『ジェニファーはムキになって』付き合ってたんじゃないかって話だ」
ジェニファーの住む区域を聞いたジャスティンは目をまるくする。
「ほんとか?―― そりゃ、本物のお嬢様だ」
「ああ。彼女の家がある番地近くで、ピートの車が不審車両の通報で、何度か駐車違反の警告を受けてる。彼女を迎えに行ってたらしいが、そりゃ目立つだろ」
「そのジェニファーって子が、例の『四人目』ってことか。 ―― まさかおまえら、レオンの事件でその子に会いにいくわけじゃないだろう?」
それは、警察官の仕事だ。




