なんとなく納得
「ええ?寝るの?ほんとに?」
ステアリングに顔をのせるように標識を見上げるウィルがおもしろそうにきく。
「―― そんないらついた顔で?」
「この顔は生まれつきだ」
むすっとした返事に笑うウィルの軽やかな操作で、国道から道を曲がる。
ジャンがその顔をみながら指摘する。
「で?その『生まれつきの顔』で、営業妨害してたわけだ」
「おれが?」
なんのことかわからない男に、隣にすわったケンが教えてやる。
「『不機嫌』な警察官がコーヒー一杯でねばってるなんて、店にすりゃ迷惑なはなしだろ」
ようやく思い当たったが、ほかに客はいなかったはずで、迷惑なんてかけてねえだろ、と言い返す。
細い道に入りギアをおとしたウィルが、入らなかっただけだよと鼻をならす。
「あの辺であんたの顔をしらない悪ガキなんていないだろう?あそこはそういうガキが集まる店なんだから、れっきとした営業妨害だと思うよ」
「・・・おれは、コーヒーを飲んでただけだ」
開けもしない缶ジュースをにぎり、濃くのびた無精ひげをかいた男が、言い張る。
それをみて、にやけた顔をケンがむける。
「おれたちが買い物してた店で、隣の店をながめて『店にはいれねえ』ってぼやいてるガキたちがいて、見にいったらおまえがいた。立派な妨害だな」
ジャスティンは言い返せない。
「 ―― おれの予想だと、おとといの会議で、レオンが探してたやつらがマーノック湖に沈んでたってわかって、おまえはすぐに捜査に出ようとしたのに、『そんな終わった事件は今度でいい。休みはきちんと消化しろ』って上司に帰されて、すねてコーヒーを飲んでた。ってとこだろ」
『すねた』男は、仕方なくいいかえした。
「―― おれたちは、おまえらと違って、規則を守らなきゃ、すぐに上司に呼び出される。動くのも、単独なんて無理だし、『管理』されてるんだ。組んでる相棒と報告内容がずれただけで、監査に呼び出される」
国に《つかわれている》ということを思い知るのは、意固地なまでに融通がきかないことを、こんなかたちでしめされるときだ。
ジャスティン、と気遣いのうまい男がふりむく。
「――― おれは、おまえがどんなに女好きでだらしなくて、人の名前を勝手にかたって遊び歩いてるか知ってるし、合同捜査で危ないところ見捨てられそうになったこともあるし、ほんと腹の立つやつだとお前のことを思ってるけど、―― おまえのこと気にして店の周りにいたガキたちが話してるのをきいて、ジャスティン・ホースは、この先もずっと、ガキどもに愛される警察官だろうって思ったよ。 ―― ま、女にはもてないままだろうけどな」
この男がなぜ自分と違って女にもてるのか、わかりたくないが、なんとなくわかった。
 




