№15- うわさを広めたろ
№15
やっぱりそっちがいいと前から伸びた手で、あける寸前だった缶ジュースは了承もなくとりかえられた。
軽犯罪部のジャスティン・ホースはその日当番明けで、一服してから街中で買い物をして、家に帰るつもりでいた。
こいつらに会うまでは。
「・・・あのな、ジャン、人のものが良く見えてとりかえるなんて、子どものすることだぞ」
いいきかせるようにすれば、ひとにナンパさせておいて、帰るときにいきなりチェンジするお前にいわれたくはない、と一蹴される。
「・・・ほんっと根に持つな」
「ジャスティン、この前また、おれの名前つかったろ?」
前の席にいるジャンの声は、怒っているのをとおりこして呆れている。
「あー・・・えっと、潜入捜査で」
「潜入捜査だあ?アメリの知り合いの店に?」
「げっ!あの店、女装ゴリラの知り合いなのか?」
「ゴリラってアメリのこと?ぼく、今度伝えておくよ」
運転席から楽しそうな声がわりこむ。
「ウィル・・・だいたい、おまえがおれの変な噂を女の子たちに広めたせいで、本名でナンパできなくなったんだからな」
「だって感染症の検査に行っただろ?」
「だからあ、あれはガキの頃に予防接種を受けてないかもしれないってことで、職場から命令されてしかたなく、・・ケン・・、そのにやにや笑いはやめろ。いいか、よけいなこと言うなよ。―― っていうか、おまえら仕事しに行くんだろ?おれはこれから帰って寝るんだ。おろしてくれ!」
ジャンの持ち物である四輪駆動車は男四人で乗っても十分な空間の余裕はあるが、この男たちの中にひとり《よそ者》で乗っていられるほど、気持ちに余裕はなかった。
 




