盗人よ
「この本を拾ったとき、わたしはあることを思いつきました。・・・彼女になりすまし、そのゴードンになりすましたやつに会ってみようと思ったのです。嫉妬心かもしれません。ほかの本をみたかったせいかもしれません。―― ともかく、半信半疑でしたが、メッセージを作り、彼女が言っていたように中央公園のベンチに置いてみました。 ですが当然、誰も本を取りにこない。・・・彼女にかつがれた自分を笑いながら本をとりにゆくと、・・・付箋の位置が変わっていたのです」
「誰もさわってないのに?」
疑いをこめザックがききかえすが、無視される。
「三十分後の時間とページが書かれていましたが、見る間にそれは消えてしまいました。 あわててここにもどり、時間きっかりにそのメッセージのページをひらきました。すると、」
『 盗人よ おまえには合わぬ女だわ おれがもらう おれが奪うぞ
今宵の月に誘われ出れば、女はおれと馬にのる
きみには、その本をさしあげよう 』
「・・・『フィリップ』という名前で、その文が現れました。 同じページをひらいていた誰かが、なんとかいう芝居のセリフだと指摘してたが、わたしは知りませんでした。 『盗人』とは、この本を、ナタリに返さなかったわたしのことでしょう。 そうして彼女は『奪われ』、数日後失踪した・・・。 さあ、これでわかってもらえましたか?あなた方がさがそうとしている謎の人物は、まちがいなく《フィリップ・ゴードン》です。 彼は考古学者で、若いころから有名で、変わり者で、たくさんの発見をしたが、―― 最後は大通りでタクシーに飛び込んで亡くなりました。 さあ、できるのなら探し出してください《ゴードン》を。彼が本当は生きているというならば、わたしもすこしは眠れるようになるかもしれない・・・」
震えるようなヤニコフの声に、三人の男たちはゆっくりと顔を見合わせた。
「・・・考古学者・・・」
「大通りで、タクシー・・・」
「・・・って・・・たしか、どっかで・・・・」
握ったままの端末機。『重要人物名』として本部に送るそれにザックがうちこんだ名前は、『ウィル』だった。
ヤニコフのながいはなし おつきあいありがとうございました。。。




