ずるい考え方
ヤニコフのはなしは長い・・・
「 ―― 彼女はゴードンと『特別』な関係にあるのだと、妖艶に微笑んだ。わたしが彼の名前を教えたその日に図書館で借りた彼の本に、いつのまにか付箋がつき、メッセージリンクのページ名と時間が記されていたそうです。・・・そして、数日後の、この本を拾ったときが、彼女をみかけた最後です。・・・・彼女が、あんなことになって、わたしは怖くて彼女の葬儀にも足を運べなかった。・・・三年たって、ようやく彼女の頭も見つかったが、わたしはずっと後悔したままで、だけど恐ろしさが勝ってしまいこの話は、誰にもできなかった。だが、―― 」
興奮か後悔で潤んできた目を、警備官にむける。
「―― ずっと、・・・彼女の手元の本がどうなったのか、そればかり、気になっていた・・・・。彼女が落としたこの本のように、他にもきっと、《ゴードンが盗んだ》と噂される『希少本』が彼女の手元にあるはずだ。これは、わたししか知らない真実だ。だから、―― このままその本を放っておくなど、とてもできそうになかった。わたしはこの機会に、それを、わたしの手元に回収しようと思った・・・」
「なるほど。『ずるい』考え方ですね」ルイが静かに言う。
「そうです。・・・ところが電話に出た彼女の弟は、部屋にあるのは、ほぼわたしの本だと言いました。そこではじめて、別の考えが浮かんだ。彼女の家に残されたわたしの本が、『ゴードン』とのやり取りも残したままだというのに気付いたのです。そのことを知っているのも、わたしだけだ。・・だから、本を、引き取って、すべて燃やすつもりだった。ナタリとゴードンが交際していたという事実をすべて消してしまいたかった。 ・・・なぜなら、わたしが紹介したせいで、彼女は 《どういうわけか》 『死人』と交際することになってしまったんだ!わたしが!わたしが!・・・彼女は、・・・ナタリはきっと、ゴードンにつれてゆかれたんだ・・・・」
どさりと椅子に腰を落とした男を困った顔でながめた二コルは、そりゃあんたがかつがれただけだろ、と肩をすくめる。
興奮ですっかり充血した目をヤニコフはむけた。
「・・・わたしも、そう思いたかった。いや、この本を拾うまでは、本気になどしていませんでした。―― この本の付せんは、わたしが試したものです」
「は?」
さすがのルイも間抜けな声をもらす。
 




