飲み物代
明るい廊下に戻り、先ほどとは違う方向へまがってゆく。
そのうちに事務内勤者が廊下を行きかう棟についた。ルイはすれちがう人間に、のんきな声と態度で挨拶してゆく。
先ほどからすでに匂いは届いていたのだが、ついたのは食堂だった。
広い空間の真ん中には、観光地にあるような軽食スタンドが建っている。
それを囲むように椅子とテーブルがおかれ、休憩をとる人間がぽつぽつと座り、それぞれの時間を過ごしている。
「食事はむこうのカウンターにとりに行くんだ。この袋は、あそこへ持っていく」
青と赤の派手なシェードをのばした白い箱のような店へルイは進み、注文口に重い紙袋をどすりと置いた。
「ビル、今回の飲み物代、ここに置くよ」
今回の?と首をかしげたザックは、ああ、とすぐに納得した。
「もしかして、さっき射撃場でみんなが飲んでたやつの?」
「そう。『的あて大会』で集まった賭け金は、毎度、見物人たちのコーヒー代になる。大会前にみんなすきなものをここで注文して、そんでこうやって集まった賭け金から飲み物代を払う」
「でも、それ・・」ザックがいいかけたとき、中から髭面の太った男が顔をだし、言葉をひきとった。
「いい商売だろ?ぼうや?」
「・・・・・まあ、そうかも・・」
どう見ても、あそこでコーヒーをのんでいた人数分以上の儲けがあるだろう。
髭の男は、ビルという名の、この白い箱の主だった。愛嬌のある髭面をつきだし、重い身をのりだして握手する。
「アルコールはないが、コーヒーはもちろん、生のジュース類がおすすめだ。それと、うちのサンドウイッチはどれも絶品だよ。あのケンが認めたんだからな」
ケンってあの?と聞くと、ルイがうなずき、困ったようにつけたした。
「あいつ、ほんと、食事に関してなんの興味もないやつなんだよ。食べ物はクソまずい軍用食があればいいって人間だから。でも、ビルのサンドウイッチだけ、うまいかも、っていうんだ」
かも、じゃなくてうまいんだ、と念をおす店主は紙袋を取り上げると、「代金を引いた残りは、『いつものとこ』だな」とウインクしてそれを納めた。
ルイはうなずき、サンドウイッチはまた今度だな、とザックとそこを離れる。
班室がある棟をめざしながら、『いつものとこ』っていうのは、この会社が運営を手助けしてる『保護施設』のことだ、とルイが説明してくれる。
「知ってるだろうけど、ちかごろ《浮浪児》の数は増えているだろ?犯罪にまきこまれる数も、多くなってる。 強制じゃないけど、会社は、施設にいる子どもの支援者になることをすすめてるよ。年に何度か、その子ども達と交流もする。・・・おれは、子どもはちょっと苦手だけど、そういうの、いいと思うよ」
首を傾けて言うのへ、「あんたも、支援者なのか?」と軽く問えば、十一人かな、と軽く返り、ザックは照れくさそうにうつむいたルイを、驚いた眼で見た。
 




