死にました
「いえ。紹介というよりも・・・だいいち、彼は知り合いではありません。面識もありませんし」
「面識も・・・?」
「ナタリには、彼の名前を教えたのです。―― ここの考古学の世界では、有名な人物です。宗教上に記され、誰もが架空のものだと思っていた建物や、集落の跡を、いくつも見つけています。ひとつはあの有名な、《中央劇場》ですよ。あそこは大昔、この国にあった王国の劇場跡に建てられたものです。ご存知でしょう? それを、この州の中心部が整備されてもいない昔、学生だった彼が掘り当てたのです。 ほかにも、彼が眼をつけた場所からは、それ相応の遺跡が見つかっています。――― その彼もけっきょく、掘り出した遺跡の《古い宗教》の方に興味が傾いてしまったため、四十代になる前には、遺跡探査は身をひき、そちらだけにのめりこむようになったと聞きます。 先ほどのこの土地の《古代神》と名付ける神が、自分を祀る人間を選んだというのも、彼が最初にいいだしたものです」
「あんたたちの世界では有名人なわけか」
ニコルの皮肉めいた笑顔をみあげ、疲れた声でヤニコフは付け足す。
「彼女が落としたこの希少本を、学校から『盗んだ』と噂されてもいた」
「ほう、そりゃいい。まったく長いまえおきだった」
名前をどうぞ、とニコルはザックに笑ってみせた。うなずいたザックは本部にすぐ連絡できるように端末機をかまえる。
「死にました」
「・・・死にました?」
あやうくそのままを端末に打ち込みそうになってザックはヤニコフをにらむ。




