首をふる
「―― 全く違考え方もうあります、特に、この土地の原始宗教を研究する人たちがいつも提唱するのは、ここでの『古代神』は自分を『祀る』人間を選んでいたという説です。選ばれた人間しか神様と『交流』することができず、その『交流』も、人間と神様との同等の『取引』でなりたっていたものだという考えです。 ―― だからこそ、ここには『神官』を務めた人種が貴族として残っているし、金のかかった工事でつくられたろう、たくさんの遺跡がのこっている、という説です」
「選ばれた人間しか、神様の『恩恵』を受けられないってことか?」なんだよ、不公平な神様だなと、ザックが憮然とした顔をする。
ヤニコフが手を組みなおす。
「聖堂教になじんだ者なら、そう思うでしょう。ところが、―― ナタリはこれをきいたとたん急にわらいだし、最後に息を吐くように、『移民』こそは選ばれた人間だったのだ、と晴れやかな顔をしました。だから、『移民以外と血が交わらないようにしたんだ』という意味のことをわたしに説明しました。そこには彼女の両親が実の兄妹だという信じられないような告白もありました。彼女の話しは残念ながらわたしには、ほとんど理解できませんでしたが・・・、何かの啓示をうけたその様子は、・・・あきらかに、《新発見》をした学者のものでした。―― わたしは、その様子に・・・嫉妬をおぼえました」
二コルがあきれたようにザックと視線を交わした。
ルイもなんともいえない顔をすれば、男が暗い笑いを浮かべた顔をあげた。
「そして、―― だんだん、腹がたってきました。彼女は自分の疑問に答えを見つけた。しかもそれは、なにかに裏付けされたように自信に満ちている。・・教え子に『抜かされた』ような気分になり、意地の悪い考えが浮かび、―― わたしは、ある人物の名を、彼女に教えたのです」
まちわびたそれに、二コルがようやく口角をあげて録音機の停止ボタンに指をかけ、「やっぱりあんたが、紹介したわけだ」というのに、ここまできてもヤニコフは首を横に振る。




