ききたまえ
「見当外れだと言ったんだ。『相手から』だって?ちがうんだよ。いいかね?あの付箋の『言葉』は、すべてナタリの言葉だ」
断言する男の目は異様にぎらつき、自分の言葉に興奮しているようだった。
二コルとザックが顔を見合わせ肩をすくめ、ルイは戸惑いながらききかえす。
「・・・そうするとつまり、あなたは、彼女から付箋をついた本を預かり、その相手に渡していたと?」
「ちがう!それならなぜ、彼女の手元に付箋のついた本が残る?よくききたまえ。彼女は本に付箋をはるだけで良かったんだ。そうすれば返事はくる。だから、付箋をはったままの本が残ってしまってるんだ!」
激しく怒りだした男は、ルイの手にある本をにらんだ。
話が通じなくなるほど興奮しているようだと判断した男は声の調子をおだやかなものへ戻した。
「えーっと、少し質問を変えましょうか。―― あなたは、どうやってこの本を手に入れたんですか?そのころナタリはもう、あなたに、『接触』しなくなっていたわけでしょう?」
まだ本をにらんでいるヤニコフは、押し殺したような声で答える。
「そう、接触はしなかった。・・・ですが、進級してもわたしの講義をはなれることはありませんでした。―― ある日、・・・中庭のベンチに彼女をみかけました。みていると、彼女は慌てて端末機械をとり出し、読んでいた本をバッグに押し込みながら立ち去ったのです。・・・そして、バッグに押し込んだはずのこの『本』が芝生に転がり落ち、わたしはすぐにそれを拾いにいきました」
「彼女に声は?」
かけません、という男は、またしてもふいにわらう。
ザックはその笑顔がなんだか怖いと思う。
 




