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けんとうはずれ
表紙の金色の文字はかすれ、変色した紙の間からは、数枚の付箋がのぞいている。
「――― わたしが、たまたま手にできた、・・・ナタリの本です。この頃すでに、わたしに愛想をつかした彼女は、ただ静かに講義を聴く生徒の一人になっていました」
古く小さな本を自分の机に置くと、観念したように静かに眼を閉じる。
ルイがそれを取り上げ、数枚つけられた付箋をたどり、『文』を確認してゆく。
「・・・『待ちきれない 次はいつ?』ですね。なるほど。相手からこうして付箋がつけられた本を、彼女に渡すのが、あなたの役目だったんですね?」
ところが、目を閉じ息をもらす男が言った。
「見当はずれだ」
「・・・なんですって?」
夢から醒めたように、しっかりと、警備官たちを見上げたヤニコフはいやな笑いを浮かべた。




