どこが ちがう?
「―― ・・・あなたたちは、ナタリ・キットソンと付き合っていた男として、本を渡した相手を犯人にしたいのでしょうが、それは無理だ」
絶対に、と言い切るヤニコフをなだめるように、ゆっくりとおだやかなにルイがききかえす。
「なんで言い切れるんです?『希少本』を貸せるような立場の人間なら、それなりの地位も金もある人なんでしょうが、あなたの証言があれば解決できる。―― おれは学者の世界はわからないが、あなたとの上下関係があるんですか?そういうことでしかたなく、若い学生との間を取り持ったんだとしたら、ひどく後悔してるでしょう?自分の本が二人の秘密の連絡手段になっていたならなおさら、」
「ちがう・・・」
またしてもルイのはなしを断ち切るように声をはさむ。
「どこがです?この一覧にあなたがナタリとひきあわせた学者がいるんじゃないですか?」
いままでにない早口での質問に、ヤニコフの顔がさらに白くなり、喉仏が緊張したように上下した。
ルイはさらにたたみかける。
「ご存じみたいですが、ナタリが持っているあなたの本の付箋をたどれば、短い文で、『早く会いたい』なんていうのから、『興奮した』『忘れられない』なんていう意味深なものまである。―― 困ったことに、付箋からも本からも彼女の指紋以外は出ませんでしたが、相手もあの付箋をつけて彼女に本を渡していたはずだ。―― それに、付箋に、特定のメッセージリンクのページを見てほしいというのもあったはずだ。彼女はそのページを開き、会う約束をそこですればいい。―― いいですか?ナタリは失踪当日に、『ついに今日なのよ』と意味ありげな言葉を残しています。なにが、『今日』なのでしょうね?」
おびえたように、ヤニコフの目がゆれる。
ルイは穏やかな口調にまたもどした。
「さあ、・・・あなたはナタリの部屋に入ったことがないのに、なぜ、彼女の本に付箋があることをご存じだったんですか?」
射抜くようなルイの視線から逃れるようにうつむいていた男は、机の上で固めていた手をゆっくりと右手の引き出しに移動させ、慎重な手つきで、革の装丁がほどこされた小型の古い本を出した。
 




