そんなわけない
その態度が気に入らないニコルがいらだった声を響かせた。
「ヤニコフさん、あんた、ナタリ・キットソンと付き合ってたんだろう?」
「わたしではない」
間をおかずに否定したヤニコフは、もう、わらっていなかった。
ザックが小声で、この人ちょっと不安定なんじゃねえの、と眉間にすじを立てた二コルの袖を引く。
何かおもいついたように、ルイが机に手をついた。
「そうか、・・・付き合っていた相手は、あなたではない。―― でも、あなたは、その相手を知っている?」
「っいや、・・その・・・・」
また机の上での手を握りこんだヤニコフは、緊張したように口を引き結ぶ。
ルイは身を乗り出し、相手にかぶさるように、ゆっくりと口にした。
「その相手はやはり、同じ学者仲間ですか?あなたも驚いたような『希少本』も貸すことができるような、立派な。 そうか・・・・数が多いではなく、少ない方。ナタリの部屋のあなた以外の本の著者が、彼女と付き合っていたのでは? あなたは、本が付箋をつけられて《どのように》使われているのかを、『知って』いる。だから、その人物をかばうために、本をすべて引き取ることにした。そういうことじゃないですか? ―― はじめに言った、『後悔している』というのは、『後悔』するような相手に引き合わせた、」
「 そんなわけないんだ! 」
静かな男が突然発した大声は、冷えた空間にいやに響いた。




