慣れるかな
じゃらりと紙袋をふくらませている硬貨は、けっこうな量だ。
灰皿に集まった大会賞金の小銭を手際よく紙袋にほうりこんだルイは、ザックについてこいと手招きし、それについて廊下にでたとたんに緊張がゆるみ、大きく息を吐いてしまう。
「そうだよなあ。慣れろっていわれてもさ、怖いよなあ。ああやって実際に会うと。―― おれも最初そうだった」
のんびりとした様子でルイが同情するようにわらう。
「だれだってびびるだろ?あの目つきでみられたらさ」
言い訳するように口にすれば、隣を歩く男はのんきな声で同意した。
「うん。だよなあ。おれもあの眼、久しぶりに『怖いなあ』って思ったよ」
そののんびりした口調に、本当にあの緊張を理解できているのかと疑ってしまう。
何もいわないザックを気遣うようにルイはつけたした。
「ほら、知ってるだろうけど、例の『爆弾事件』で、顔にあんなひどい傷もできて、よけい怖い顔になったんだよ」
「顔の問題じゃねえよ・・なんつうか・・・」
まだ、毛が逆立ったままのような自分のうなじをザックがなでれば、ルイがまた笑い、同意した。
「そう。けっきょく顔より眼だな。おれも未だに、あの男と眼をあわすのは、怖いよ」
「・・・・ほんと?」
思わず出してしまった子どものような聞き方に、ルイがゆっくりうなずく。
「そう。うちの班員だけじゃなくて、みんなさ。バートは常態が、怒りを内におさめている男だ。見合った相手の、奥の奥までを怒りで照らそうとしてる。―― でも、本人には自覚がないぶん、よけいに怖いってわけさ」
「うっそだ。あれで自覚ないって?ぜってえ、脅そうとしてるって感じだぜ?」
「ないね。ないない。断言するって。そんな小細工をつかう男じゃないし、―― だいいち、つかう必要がない」
「やっぱ、噂どおり強い?」
やはりどこか子どもの質問のようなそれには、ルイは笑わずにどこか遠くをみる顔になった。
「―― 弱いよ。人間だから」
「は?だって、バートっていったら、」
「ザックも、強い人間かって聞かれたら、弱いですって答えるんだね。そのほうが、ずっと人間らしくていいよ」
「はあ?」
廊下を先に曲がる相手が、ふ、っと笑った。
その顔をみてザックはこの男に対してさきほど自分が抱いた印象をあわてて修正し、さっきまで寒気のあった首の後ろをこすった。




