渡していない
「―― 先ほども言いましたが、《移民》の信仰はわたしの研究において一部分です。・・・ですが、彼女は、もっとくわしく、《深い話》を欲しがった。 いままでわたしが書いた本では、情報が少ないという。 当然です。 わたしはそればかり研究しているわけじゃない。他の大陸の、似たような信仰や、土着民の信仰。それらの広がり方と伝わり方を軸として研究しているんです。―― それがわかると、彼女は、わたしにがっかりしたようです」
がっかり?とくりかえしたルイに、自嘲的な笑みをむけて続けた。
「―― 彼女が知りたいことの《専門家》ではないことがわかったからでしょう。彼女には、《研究》とは、知りたいことは自分でさがし、答えは考えて見つけるものだと伝え、できることの精一杯として、わたしの著書を数冊渡したのです」
「数冊?」
「正確には、三冊です」
「・・・では、これらの一覧の、ほかの本は?」
「わたしは、渡していません」
「いない?なのに彼女は、こんなにたくさん、あなたの本を持っている?」
「わたしが、・・・・渡したのでは、ありません」
「しかし、彼女の持っていたあなたの本に、」
「付箋が、あったのでしょう?」
「・・・・・・」
二コルたちに目をむけた男は、人のわるそうな笑いをうかべていた。




