人形は毒いり
小さい頃、兄に怖い話を聞かされた場面を唐突に思い出し、一瞬襲われた寒気に、久しく会っていない兄弟へ、心のなかで文句をつけてごまかす。
ふいにルイと眼が合って、顔をしかめたら、微笑まれた。
ニコルが数歩進み出て、相手の名を確認し、こちらの身分証を提示して、会話を録音させてもらいます、と説明したところで、男は『後悔してる』と言ったのだ。
ルイが、鼻で笑ったのを感じた。
ニコルはいらついたのを隠そうともせず、ナタリとの関係をはっきり言うよう迫った。
ザックは、――― 男が出した声音が、ひどく重いな、と感じた。
おまけに、暗い。
電灯はこの部屋の広さに見合わないひとつしか天井についていない。
同じようにひとつきりの窓には、薄汚れた色のカーテンがひかれている。
ふいにルイが、積まれた本たちを見てまわりだす。
「ヤニコフ教官、もう一度、言いましょうか?」
ニコルが動かない相手に、確認するようゆっくりと発音し、それでも反応がないのをみてとると首をふってそのまま棚に足をむけ、二十センチほどの木彫りの人形を持ち上げようとすれば、「さわるな!!」と鋭い警告を受ける。
本を確認しようとしていたザックとルイも、ヤニコフを見て本をもどす。
「・・・いや、本は、どうぞお好きに。・・・あなたがさわろうとしたその木の人形、毒をいれるための容器でして。中身も、いくらか残っている」
「毒?人形の中に?」
 




